年末調整 源泉所得税のこと

サラリーマンの方は、年末年始に職場で年末調整をして、すでに給与所得の源泉徴収票を受け取られる頃と思います。この書類の見方を理解されている方は、どの程度いらっしゃるのでしょうか?

約30年前、まだ初々しい住友金属工業㈱の新人OL時代に、「わからないことがあったら、何でも聞いて。」と上司に言われて、

「給与明細の見方を教えてください。」と、自分の給与明細を見せたことがあります。

(信頼していたとはいえ、オープン過ぎ💦)

しかし、その上司(京大経済卒、40代)は「ふーん、これくらいの給料なのかー」と、しばらく私の明細を眺めて、「はい」と私に明細書を返してくれました。そうですよね。今ならわかります。みんな意外と理解していない。

だから、脱サラして、個人事業主になった方は、全員が、必ず、100%、所得税、住民税、社会保険料の負担に、心底びっくり、がっかりされるのです。(数年で慣れます。)

結局私も、自分の給与明細の中身がわからないままOL時代を過ごしてしまいました。

でも、今はそれをみなさんに説明したり、計算したりする側になりました。OL時代の経験も、今の仕事に大変役に立っています。

さて、この給与から天引きされている源泉所得税のしくみは、なかなかの曲者で、給与だけでなく、退職金、年金、報酬、配当、銀行の利息からも天引きされ、その天引きした誰かが、みなさんが気づかないうちに、納税してくれるというしくみです。

国税収入の約30%を占める所得税収は年間約20兆円。そのうち源泉徴収税額は約16兆円だそうです。つまり、この16兆円は国民がほとんど気づかないうちに納税しているのです。

そして所得税法では、「源泉所得税は、天引きする側に納税義務がある」と定めています。つまり、経理担当者の「源泉所得税」に対する認識が甘いと、全く悪意がなくても、納税義務を怠ったことになります。

税務調査で徴収・納税もれを指摘されると、本来は支払いを受けた人から天引きすべきだった金額を、その会社が納税しなくてはなりません。支払った相手に、過去に遡って請求できる場合は良いのですが、請求しにくいケースもありますし、また、請求された側が支払ったとしても、その方の過去の確定申告もやり直さなくてはならないので、非常に面倒です。

税務調査の際、調査官は必ず源泉所得税をチェックしますし、このような面倒は避けたいので、私は、お客様の源泉所得税も慎重に確認しています。

先日は、なんと、顧問先様の顧問弁護士からの請求書に源泉所得税の記載がなく、顧問先様が気づかずに、弁護士に全額を支払ってしまっていました。顧問先に連絡して、弁護士報酬の請求書の出し直しと返金を依頼してもらいました。弁護士事務所でもこのようなことがありますので油断禁物です。

昨年末(2020年12月15日)の税理士界(税理士向けの新聞)に、日本税理士会連合会の「源泉徴収制度のあり方についてー令和元年度諮問に対する答申ー」という資料が入っていました。中身を要約すると「現在の源泉所得税の徴収方法を、時代の変化にあわせて、ドラスティックに改善する必要があるでしょう。」というものです。

源泉徴収する側の事務負担は膨大ですし、コロナ禍で今は減っているとはいえ、コロナ禍がおさまれば、日本で働く外国人(非居住者の源泉所得税にも細かい規定があります。)は増加するでしょう。マイナンバーの普及に伴い、いずれ公的な事務手続きが簡素化されるのでしょうから、その流れにあわせて、源泉所得税のしくみも変えていくべきと思います。

また、主体的に申告納税することが、民主主義の根幹をなし、国民の参政意識につながるとすると、源泉所得税はそれに逆行しています。選挙の投票率の低さの理由のひとつには、多くの人が、人任せで強制的に納税させられてしまう、源泉徴収制度にあるのかもしれませんね。

実際の改正は、まだまだ先ですが、源泉所得税の制度の見直しの行方に注目していきたいと思います。